だから結局

So After All

2月9日のこと

昨日、Nの墓参りに行ってきた。普通墓参りは命日に行くものなのかもしれないが、自分はいつも彼の誕生日を選んで墓参りをしている。彼にとって彼自身の命日は不本意な日付に違いなかったろうと思うからだ。そんなことを言ってもみてもしょうがない、自分の命日に納得できる人なんて滅多にいないんだから、と言われるかもしれないが、実際、彼は志半ばにして倒れた。やりかけの仕事を残してこの世を去らなければならなかった。自分はそれを遺憾に思うから彼の誕生日、2月9日に墓参りをしている。

この日は冬らしい寒さと濃い灰色の空でロンドンを思わせる天気だった。ロンドンの曇り空は悪名高く、ロンドンのサッカーチームではスペイン人選手は活躍できないと言われるほどだ。Nはサッカー選手でもなければスペイン人でもないが、それでもロンドンで暮らしていた一時期、ノイローゼ気味になったこともあるらしい。

墓参の日には早稲田のやよい軒で牛すき焼きを食べるのを恒例にしているのだが、時間の都合もあって今回は吉野家の牛皿定食で済ました。隣接のファミリーマートでポッキーを買う。これを甘いものが好きだったNへのお供えにするのである。東京での彼の生活圏は早稲田近辺にまとまっているので、まずはこのあたりをぶらつく。

ひと仕切ぶらついた後、寒いのとやることがなく手持ち無沙汰なのとで、すぐに雑司が谷へ向かう。早稲田大学の大隈講堂を横切って都電の早稲田駅へ。路面電車なのでメトロやJRとは比べようもないほど小規模ではあるのだが、暗い曇り空の下だと余計にしなびた駅に見える。ただし、車両はワンマンカーながら新品同様の綺麗さで、走っていても路面電車特有のうるさい音がしない。運賃先払い。乗客は7〜8人いたが、全員SuicaだかPASMOだかで運賃を支払っていた。

都電雑司ケ谷駅に到着すると雪がちらつき始めた。何もない駅なのでそのまま墓へむかう。雑司が谷は墓所として有名で、Nの墓にポッキーを供えたあと、ついでに泉鏡花、小泉八雲、永井荷風の墓も参っていった。

しかし、あまり墓の数が多いから迷った。迷っているうちに雪が本降りになってきた。雪のせいでいつもは顔を出す猫も出てこない。さいご小泉八雲の墓を見つけた頃には、あたりは暗くなってきて外套は白くなってきていた。

墓参を終え、高架下をつたって池袋駅までとぼとぼ歩き、立呑みで一杯だけ。あてのカイワレツナサラダがうまかった。渋谷で開催される大学同窓の飲み会に出るため、山手線に乗り込んだ。目につく限りの大勢の人がSuicaだかPASMOで運賃を支払って改札を抜けていった。