だから結局

So After All

お気に入りの電車広告

電車に乗っていて目につくのはなんといっても電車内の広告だ。ドア前に設置されている映像広告は暗唱しかねないほど毎日見ているし、入れ替わりのさかんな中吊り広告にしても全種類見ているのではないかと思うほど、毎日、電車広告を見ている。

気に入りの映像広告は、熟語を教えてくれるメイクアップ講座のやつ(直近で教わったのは「懸珠:印象的できれいな瞳のこと」)と、FC東京のやつ(勝ち飯じゃないやつ)だ。あと東急の「これからの渋谷にご期待下さい!」のやつも気に入っていて、絶対最後まで見てしまう。

自分の場合、広告の内容に興味があるわけではないが、「見せよう」という工夫がこらされていて、その工夫がさりげなくも上手にキマっているのを見ると、つい嬉しくなる。しかし、中には全然だめな広告というのもある。だがそれにしても一見、電車広告の文脈に乗っかれていないようでいて、それはそれで目を引くからそういう戦術なのかもしれないと思って、そういうやり方や戦術をごたごた考えるのが何かと暇つぶしになる。本当は本を読みたいのだが、ギュウギュウの車内ではよっぽど読み進めたい本がないかぎりは漫然と突っ立っているのがラクであり、それがラクな以上、ラクでいることになる。しかし手持ち無沙汰といえば手持ち無沙汰で、そんな手持ち無沙汰感の軽減に電車広告は一役買っているといえる。まんまとキャピタリズムに乗っかっているともいえるが、メトロに乗りながらキャピタリズムに乗っかれるのであれば、本望だという気がしないでもない。キャピタリズムとは何なのかよくわかっていないにしても、よくわからないからこそ乗っかりやすいというのはありそうなことじゃないかと思う。

それでも、内容を見ているのではなく、あくまで外形を見ているのだから、それで何かのイメージがどうにかなったり、何かを買いに走ったりすることはないはずと、自分で自分に言い聞かせながら電車広告を見ているのだが、たぶんダメで、おそらくきっちり影響を受けているんだろうと思う。週末あそびに行く場所とか……。

 

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そういえば、最近、中吊り広告で感心した文言があった。

「才能じゃない 努力でもない 体調だ」

これは本当にそうだと思う。それだけじゃなく、自分がそうだと思っているということは多くの人もそう感じているにちがいなく、そういうふうに言葉未然の感じられていることを言葉にして共感を集めているのが上手いと思って、感心した。

図抜けた仕事をしたいと思うなら、才能や努力という傾斜が必要になるのかもしれないが、そうじゃないなら体調が圧倒的に大事だと思う。才能はあれば使えばいいだけのものだから、そりゃあったほうがいいんだろうけど、努力はまったく必要ない。いや、無くていい。いや、無いほうがいい。「下手の考え休むに似たり」という言葉もあるように、馬鹿がうんうん頭をひねってもどうにもならない。わるくすると良くない結果に連鎖的に落ち込んでいくことになるし、その可能性は決して低くない。悲しいぐらい、よくある。

努力しかないと思い込む人はそう思い込むしかないからそう思い込むんだろうし、その時点ではじめからだめなので努力なんてしないほうがいい。思うべきなのは、努力しないとではなくて、工夫しないと、である。自分は絶対そう思うんだけど、そう思わない人も多いんだろうという気はする。工夫せずに努力だけするなんてムシのいい話、信じないほうがいい。(それがラクなんだったら話は変わるけれど)

それでも努力派の人たちにとっても、短い努力よりも長い努力のほうが、努力として報われがちな良い努力と見なされるんだろうから、そのためには体調(管理)をしっかりしましょう、ということはいえる。才能派の人たちにとっても、コンディションを整えて、自分の能力を100%使えるのは良いものだと思う。これは作品の受容においても同じことがいえて、「寝不足だろうがなんだろうが良い作品は良い」なんて素朴なことを言っていてはいけない。良い作品が良いのは当たり前だが、それを100%でキャッチできるかというのが勝負の分かれ目だ。じつはそここそがかなりぎりぎりの際どい真剣勝負。個人の領域のことなのでオモテにあらわれにくい事柄ではあるが、それだけに一層、何よりも真剣な真剣勝負だ。

そんなのはどうでもいいと思うなら、わざわざ「努力」してまで作品を受容しなくてもいいのにと思う。頑張らないでいることは難しいにしても、もっと金になることをやったらいいのでは? なんて、余計なお世話だぜ!って言われることをつい思ってしまう。

 

上機嫌は人が着ることのできる最上の衣装である。 サッカレー

 

上は、自分の右に100個分ぐらいのスペースがあるとしたときの、自分の座右の銘のひとつだ。自分はオシャレにこだわりがあるので、上機嫌でいることにもこだわりがある。

毎日きっちり8時間寝ていれば、上機嫌でいるために少なくとも努力は必要ない。しかし毎日きっちり8時間寝られるのは幸運な人なんだろう。自分は、毎日7時間30分しか寝れていない。だから、もっと頑張らないとな、と思う。

 

 

SAPEURS  - Gentlemen of Bacongo

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