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【本のおすすめ】『掃除婦のための手引き書』ルシア・ベルリン

 

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集

 

 

好きで勧めたいと思う本はいくつかあるが、その中でも、とりわけ女友達に勧めたいと思う本がある。この本は女友達の誰それに読んでほしいと思うとき、その本のことが本当に好きなんだと実感できたりする(今回はたんに思うというのを超えてブログに書いているのでその気持ちはいっそう強いといえる)。
最近読んだ『掃除婦のための手引き書』はまさにそんな本だった。ルシア・ベルリンという人によって書かれた短編集なのだが、彼女の書く物語は読んだ人の支えになること請け合いである。
しかし、この本を女友達に直接勧めるのは気が引けるところもある。わたしの女友達は皆、自分には支えが必要だと思うタイプではないからだ。もし「本当のところ自分には支えが必要だ」と思っていたとしてもそんなことはおくびにも出さないし、少なくともわたしにはそんなこと教えてくれないだろう。だからこの本を勧めるのがそもそもおかしいということになる。お前は何を勘違いしているのだという話になってしまう。まあ勘違いなどはべつに訂正すればいいだけだし訂正するだけだが、訂正するようなことを言いながら本を勧めるというのはそういう機会がふんだんにないとなかなか難しいものだ。
しかし、わたしに支えが必要なのとある程度同じで女にも支えは必要なんだろうし、という一般論的な前提に立って、また、わたし個人としてはべつに支えになるのが現実の人間でなくてもかまわないと思っていたりもするので、やはりこの本を勧めるだけは勧めたい。時間があるときに読んでみてくれよな。
 
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この本は短編集だが、どの短編を読んでもルシア・ベルリンという著者の声が生にちかい形で聞こえてくる。支えになる云々という話をしないでこの本を勧めればいいではないかとこの本を読んでいない人は思うかもしれない。が、支えになる云々という話はこの本にとっては不可避で、ルシアベルリンの真芯である。彼女には自分の背骨を引っこ抜いて誰かにぶっ刺すことでその誰かをしゃんとさせようとするようなところがあって、そこに強烈に存在する痛みを通じて、本物の支えになろうとしている。
本来、わたしにとって上のような語彙は好みに合わないはずなのでおかしいと思うが、たぶん自分の思う”自分の本来の好み”が自分でも気づかないうちに歪んできていて、それをゴリッと矯正されたのだろう。草相撲に負けて自分の手持ちの草がまっぷたつに千切れてしまっただけのことかもしれないが、新しい草を見つけるまでは『掃除婦のための手引き書』を自分の手持ちとして生きていかなければいけないような気がしている。
この短編集はどれをとっても素晴らしいので、とくにこれが良かったというのは控えたいと思っているが、強いて言うなら短編の並べ方・順番が素晴らしいと思う。この順番にしたのは訳者なのか原文の編者なのかわからないが、ルシアベルリン的な流れをしっかり汲み取った並べ方だと思った。とくに最初の三作の並べ方が素晴らしいので、本屋で最初の三作だけでも読んでみてほしい。所要時間は15分ぐらいだ。
わたしはわたしとわたしの女友達からできるかぎり痛みが免除されてほしいと考えるものだが、それでも現実に痛みを引き受けなくてはいけないこともあるんだろうと考えるほどには現実主義者だ。リアリストすぎて具体的なことは何ひとつ言えないものの、なんとか(できればうまく)対処できればいいなと思っている。『掃除婦のための手引き書』はその助けになってくれるはずなので、時間があるときに読んでみてくれよな。
 

 

はぐちさん (フィールコミックス)

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はぐちさん 2 (Feelコミックス)

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はぐちさん 3 (フィールコミックス)

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はぐちさん 4 (フィールコミックス)

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はぐちさん 5 (フィールコミックス)

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