だから結局

So After All

【映画の感想】『ミスター・ガラス』

日曜日の夕方、公開直後の『ミスター・ガラス』を見てきた。空席が目立つ回で、席は半分も埋まっていなかったと思う。初週からこれだとすぐに公開終了になりそうだ。

ヒットとは言えない客入りだと思うが、広報は頑張っていると思う。『ミスター・ガラス』というタイトルにしても、ヒーロー物で続編なのであればナンバリングにするなどして続編だと明らかにするのがマナーだと思うが、続編だということを明示すると客入りに影響が出そうだという判断からか、タイトルで続編ということを示してはいない。

それどころか予告を見ても『アンブレイカブル』の続編ということは伏せられており、これが”広報戦略”だということがはっきりする。前情報なしで『ミスター・ガラス』を見てよくわからなかったという人は、視聴後ツイッターなどで感想をみて続編だったということを知り、そのせいで良さがわからなかったと思い込む。前情報ありで見に行っている人はそもそも監督のファンであり「すごかった」「感動した」などと感想を書く。いい評判が増えるわけである。*1

自分はたまたまツイッターの情報を得ていたので続編だということを知り、『アンブレイカブル』と『スプリット』を前日に見ておくことができた。『スプリット』は今思うとよくできた映画だったんだなと思った。ほとんどワンルームで進むので予算と内容が合致しているのが功を奏したと思われる。

『ミスター・ガラス』の感想は一言でいうと「騙された」というものだったが、それではあまりにも自分がかわいそうになったから「良いところを探そう」に変えた。それで苦労して見つけたのは、マカヴォイが四足で走るところの演技がまるで本物のビーストのようですごかったということ。でも欲をいえばもっと寄ってほしかった。かなり引きの画面で、表情などは映らず、本物なのかCGなのかの区別が付きにくいようになっていたので。

あとはこの映画のやばいところだが、まず「オオサカタワー」の時点でヤバかった。「フィラデルフィアに新しいタワーが立ちます。名前はオオサカタワー」のところで笑い声が聞かれなかったのは映画館がガラガラだったからだろうか。

謎の組織に所属し、「スーパーヒーローは存在しない」とスーパーヒーローを文字通り説得する女医は、どのシーンでもつねに「予算がありません」という顔をしていて、見ているのがつらかった。そのくせ出代は誰よりも多く、映像的に良いものではないと感じられる時間が長かった。ここは劇中時間をもっと進めてアニャ・テイラー=ジョイを据えれば良かった気がする。女医だけに。

演出もところどころお粗末で、笑えばいいのか泣けばいいのか判断に困る場面が多かった。謎の組織所属と身バレするシーンの”手首へのタトゥー”なんかはまだかわいいほうで、問題は店を貸し切りにせず貸し切り状況を作り上げる逆フラッシュモブのシーンだ。じつはこのレストランは組織の秘密のミーティング場所だったのだ! という組織外の人間が退店すると同時に一斉に静まり返るシーンは、狙ってきているのが明らかだったにもかかわらず、ガラガラ状況のせいか自分が見た回では完全に滑っていた。自分はここでこらえ切れずにちょっとだけ泣いた。

そして圧巻はアクションシーンである。前二作を通して紹介してきた二人のスーパーヒーローが掴み合いのバトルを繰り広げる。一作ずつ丁寧に作り上げてきたキャラクター同士がついに激突する。一台のバンにお互いの身体を投げつけあう二人、揺れる一台のバン、お互い一歩も引かない膠着状態がつづく。そのとき、戦況を見守っていた頭脳派のスーパーヒーローから「あいつは水が苦手なんだ!」という声が飛ぶ。ふたたび一台のバンに投げつけようとしていた手がピタリと止まり、相手を大きいバケツのような水槽に投げ入れる。万事休す・・・

 

〜以下、ネタバレ注意〜

 

その後いろいろあって、腹パン、窒息、狙撃銃でそれぞれあっさり息を引き取る三人のスーパーヒーローたち。文字にするとショボく感じられるが実際ショボい。映画界最強のヴィラン【予算】には勝てなかった。

最後、いい感じに「してやった」感を出して終わったので、余計ショボさが目立った。ただ、あのブルース・ウィルスが普通の人でもこんなところでは死なないよという小さな水たまりで呆気なく溺れ死ぬというのは衝撃で、そこを押していけばあまりにショボすぎて逆に物凄いものを見たのでは…? というところまでいけたんではないかと思う。

実際にはそうならず、全部計算でしたと言わんばかりにそれさえぶち壊しにする”ミスターガラス一世一代の策略”は見事だと言うしかない。

『ミスター・ガラス』、ショボささえもショボくてとにかく残念な映画だった。見ないに越したことはないが、見るんだったら『アンブレイカブル』と『スプリット』を見てから見るのがおすすめである。そのほうが最大のポテンシャルを発揮するというのはファンの人とも意見が一致するところだろう。

 

 


「ミスター・ガラス」予告編

 

 

f:id:mttnysk:20190122164446j:plain

ポスターにはちゃんと「『アンブレイカブル』のその後」と大きく書かれていた(ピンポン)

 

*1:映画の邦題問題などでもそうだが、短期的に成果を上げようとするやり方は、長期的には業界全体の首を絞めることになるんじゃないかと懸念する。とはいえ商売でやっているんだから考え抜いた上でのことなんだろうとも思う。自分は好きになれないが。